vol.1 「アンティーク家具」、「ヴィンテージ家具」とは

vol.1 「アンティーク家具」、「ヴィンテージ家具」とは

"アンティーク家具"って?

独特の風合いやデザインが魅力的なアンティークやヴィンテージのアイテム。なんとなく古い家具に興味がある方は、「そもそもアンティークってなんだろう」、「アンティークとヴィンテージの違いって?」と疑問に思ったことはありませんか。Roccaが長年の経験で得た知識とともに、"アンティーク家具"や"ヴィンテージ家具"の基本についてご説明します。

本来の"アンティーク"の定義

100年以上前のものが"アンティーク"?

 「アンティーク」の語源は、ラテン語の「antiquus」(古代の、古い)に由来しています。そこから「アンティーク」という用語は、古い時代の品々を指す言葉として広く使われるようになりました。

 アンティーク家具について、100年以上前に製造された家具のことを指すと言われる場合がありますが、実は必ずしもそうとは限りません。この言説が広まった要因は、アメリカの通商関税法である「The Tariff Act of 1934」の中で、古美術品が「100年以上前に製作された芸術品、装飾品、工芸品等の貴重な製品」と定義されたことにあります。この美術工芸品に関する関税の基準を「アンティーク」の定義の根拠とする人々がおられますが、元々はあくまで通商関税法の中での規定であり、アンティーク家具に対しての明確な定義を示すものではありません。

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ヨーロッパの暮らしの中の"アンティーク"

 アンティーク家具が暮らしに身近な本場ヨーロッパでは、製造から100年が経っていないものであっても「アンティーク」と呼ばれることが多々あります。厳密な製造年よりも重要なのは、伝統に連なるデザイン性や現代の大量生産家具とは異なる独自の価値があることです。

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バーリーシュガーツイスト

大麦(Baerley)から作られたねじり飴が語源。螺旋形挽物の加工技法が発明された17世紀の後半に流行した。

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マーケタリー(木象嵌)

自然の色の濃淡を生かし、薄い木をパズルのように組み合わせた装飾技法。ヨーロッパでは家具や楽器の装飾として古くから親しまれてきた。

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バルボスレッグ

16世紀後半エリザベス女王時代のイギリスで流行した、脚部などに見られる球体状の装飾。時代を経るごとにより複雑で技工を凝らした装飾的なものへと変わっていく。

 1920~1930年代には、一部機械化が進んだことで格段に完成度の高い製品が造られ始めます。また、当時としては新しい素材や技術が導入され、金属やガラスなどを使った家具も登場しました。現代では、この時代の製品がアンティーク家具として多く出回り、人気を集めています。

 以上のように、「アンティーク」といってもその定義は曖昧であり、ヨーロッパ現地でも厳密な年代の区別はされていないのが実情となっています。

当店でのアンティーク表記について

伝統のデザインと、育まれた価値を守る

 当店では、「アンティーク」という言葉は必ずしも100年以上経過した家具に限定して記載していません。年代や来歴が不明な商品や製造後100年を経過していない家具についても、クラシックな意匠を備え、さらに経年によっても付加価値が維持される要素を持つものには、「アンティーク」という言葉を使用しています。

 商品が情報的付加価値とともに次世代に受け継がれることを願い、ディーラー資料や前所有者からの情報、経験に基づく目利きにより詳細情報をできる限り正確に提供するよう努めております。

※ アンティークやヴィンテージ商品の性質上、年代や来歴に関する情報に誤りや不確かな点が含まれることがあります。これらの情報に関する完全な正確性や信頼性を保証するものではありませんので、あらかじめご了承ください。

※ また、雑貨、工芸品の表記に関しては、以下の通りとさせていただいております。

  • アンティーク = 製造よりおおよそ100年以上していると思われる古美術や骨董品
  • ヴィンテージ = 製造より100年未満の古くて価値のあるお品物、現行品で手に入らない物
  • アンティークスタイル = アンティーク風に作られたもの
  • ヴィンテージスタイル = ヴィンテージ風に作られたもの
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アンティークとヴィンテージの違いとは?

家具デザインの変遷とその背景

 アンティーク家具にとって最も重要なのは、伝統的なデザインと独自の価値が感じられることです。家具のデザイン様式は、15世紀ごろイギリスで貴族のために作られた家具の中から生まれていきました。当時の英国王の名前からとられたジャコビアン様式やエドワーディアン様式、フランスで流行した絢爛豪華なバロック様式や軽やかで優美なロココ様式、中国趣味を取り入れたシノワズリなど、ヨーロッパの長い歴史の中で数々の様式が誕生しました。どの様式も共通して美しい装飾性を持っています。

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ジャコビアン様式

17世紀前期〜中期、英国王ジェームズ1世時代頃の様式。垂直性を強調したゴシックモチーフと古代古典の装飾要素が混在する。

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エドワーディアン様式

英国王エドワード7世在位中(1901年~1910年)の様式。従来の重厚なイギリス様式とは対象的に、繊細で美しいラインが特徴。

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シノワズリー

17世紀半ば〜18世紀に流行した中国趣味の様式。独特の素材や装飾を用いた中国美術工芸風のアレンジが特徴。

 しかし、20世紀になるとヨーロッパの家具デザインには大きな転換が見られました。1914年に勃発した第一次世界大戦が終わると、北欧の小国デンマークでは通貨クローネが高騰し、安価な家具と高級木材が大量に輸入されるようになりました。これを契機に国内で高品質な家具を製造する機運が高まり、それまでのデコラティブな家具とは異なるシンプルでモダンなデザインの家具が作られ始めたのです。デンマークでは展覧会やコンペティションが開かれ、多くの職人やデザイナーたちがその腕を競い合い、次々にモダンで洗練されたデザインの名作家具が誕生します。こうして生まれたデザイン様式は「北欧スタイル(ノルディックスタイル)」と呼ばれ、飽きのこないシンプルさ、ナチュラルな素材感、実用性、繊細なクラフトマンシップを特徴としています。デンマークで起きたこの現象は、世界中に大きなインパクトを与えることになりました。

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Ole Wanscher "PJ149 コロニアルチェア"

伝統家具に学びつつ、北欧らしい軽快さを追求した名作。細身のフレームと絶妙なプロポーションが、機能性と美を高い次元で融合させている。オーレ・ヴァンシャーを代表する、知的で洗練された一脚。

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Finn Juhl "No.46 アームチェア"

有機的な曲線と彫刻的フォルムが特徴のアームチェア。人体の動きに寄り添う造形で、従来の家具観を覆した。芸術性と機能性を兼ね備えた、北欧モダン初期の革新的作品。

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Hans J Wegner "Yチェア"

1949年発表。背もたれのY字型が特徴の軽快な名作チェア。無駄のない構造と快適性を両立し、デンマーク家具を世界に広めたウェグナーの代表作として知られる。

 さらに、1939年に第二次世界大戦が始まると、元祖家具王国イギリスにも物資不足の波が訪れます。それまで主に使用されていた、オークやウォールナット、マホガニーといった木材は手に入らなくなり、当時輸入しやすかったチーク材による家具が多く作られることになりました。また、都市では安価な家具の需要が急激に高まり、手間やコストのかからないシンプルな家具が求められ、デザインの主流は北欧スタイルへと変化していきました。こうしてイギリスで家具が大量生産されるようになると、北欧スタイルは一気に世界中に広まり流行しました。主に当時作られた家具が、現在「ヴィンテージ家具」と呼ばれる家具たちに相当します。

アンティーク家具・ヴィンテージ家具の魅力

 アンティーク家具やヴィンテージ家具は、単なる古い道具ではありません。その背景には、時代の流れや社会の変化、そして各地の文化や暮らしが色濃く刻まれています。イギリスの重厚なクラシックスタイルや、デンマークの洗練された北欧モダンのように、地域ごとに異なる美意識や技術が、家具というかたちで語り継がれてきました。

 現代では見られなくなった職人の技や、長い年月を経た木の風合いからは、量産品にはない温かみと奥行きが感じられます。一脚の椅子、一台のテーブルに、かつての持ち主の暮らしや時代の空気がそっと宿っている。そんな物語と出会えるのも、アンティーク家具ならではの魅力です。

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