vol.3 イギリス「G-PLAN」──戦後モダン家具の象徴
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イギリスの家具ブランド「G-PLAN(ジー・プラン)」。北欧のエッセンスを映したシンプル&モダンな造形に、ブランドならではの粋なアクセントを添えた名作たちは、rocca roccaでも常に高い支持を集めています。 本記事では、その歴史と魅力をわかりやすくご紹介します。
G-PLANとは?
「G-PLAN(ジー・プラン)」は、1952年に英国の家具メーカー E. Gomme Ltd. が立ち上げたブランド。戦後のイギリス家庭に「新しい暮らしのかたち」を提示した存在であり、北欧家具の洗練と英国らしい堅牢さを兼ね備えたデザインは、現在も世界中のヴィンテージ市場で高い人気を誇ります。

G-PLANのはじまりと時代背景
G-PLANは、1950年代の戦後復興期に「実用的でモダン」な家具を目指して誕生しました。 その名は、創業元であるE. Gomme社の頭文字「G」と、“時間をかけて計画的に家具を揃えていく”という当時としては画期的なブランドコンセプトを表す「PLAN」に由来します。 一つひとつの家具が、暮らしの中で少しずつ形を成していく──そんな理念を象徴する名前です。
G-PLAN誕生の背景には、北欧で発展した「ノルディックデザイン」の影響が深く関わっています。 特にデンマークを中心に広がったモダンで機能的なデザインは、世界的な潮流となり、重厚でクラシカルな様式が主流だったイギリスにもその波が押し寄せました。 また、戦後のイギリス国内は、空襲の影響によって住宅や家具の需要が高まる一方、深刻な物資不足にも直面していました。 そのような時代の中で、いち早く北欧のデザイン理念と新しい素材を取り入れたのが、E. Gomme社の三代目Donald Gomme(ドナルド・ゴム)。 彼によってブランド「G-PLAN」が誕生し、英国アンティーク様式から離れた軽やかでスタイリッシュなデザインが、当時の暮らしに新しい風をもたらしました。
イブ・コフォード = ラーセンとの共作
1960年代に入ると、G-PLANはデンマークのデザイナーである、Ib Kofod Larsen(イブ・コフォード = ラーセン)を迎え、チーク材を用いより一層洗練されたスタイルへと進化していきます。 ラーセンは、デンマークの王立芸術アカデミー建築科を卒業、家具デザイナーとして多くのデザインを手がけました。 ラーセンとG-PLANが共作した家具には、彼のサインと「DANISH DESIGN」の文字が入ったゴールドスタンプがエンボス加工で施されています。 同時期には「Fresco(フレスコ)」や「Quadrille(クアドリル)」などの名作シリーズが誕生し、G-PLANは“英国モダン”を象徴するブランドとして確固たる地位を築きます。
その後も家庭のライフスタイルに寄り添うデザインを追求し、よりカジュアルで実用的な大型家具が登場。 素材やフォルムの多様化も進み、G-PLANは多くの家庭で親しまれる存在となりました。 1980年代以降は輸入家具の台頭により一時的に姿を消したものの、近年では「ミッドセンチュリーモダン」デザインの再評価とともに再び脚光を浴びています。 時代を超えて愛され続けるそのデザインには、英国の美意識と職人の確かな技が息づいています。
ブランドロゴと、ラベル・スタンプの変遷
ラーセン共作のスタンプの他にも、G-PLANの家具にはその製造時期によって違うラベルやスタンプが存在します。その変遷を辿ってみます。
1950年代〜1960年代半ば
こちらは、最初期のものとされているゴールドスタンプ。木材表面に直接焼き付けられています。 デザイン中央には社名を短縮した「EG」、その外側を取り囲むように「E. Gomme・High Wycombe」と記されています。 ハイ・ウィカムはE. Gomme社が創設された町の名前です。
1965年〜1980年ごろ
1965年以降に使用されるようになったレッドラベル。 それまでの焼印による控えめな刻印から、鮮やかな赤いラベルへの変更は、G-PLANがブランドとしてのアイデンティティを確立した象徴的な転換点とも言えます。 ただしこのラベルは紙製ということもあり、現在は剥がれてなくなってしまっている場合も多くあります。
1975年〜1985年ごろ
1975年から使われはじめた、メタリックラベル。表面に光沢があり、一層華やかな雰囲気が漂います。文字はゴールドになり、浮き上がって見えるようなエンボス加工が施されています。
1985年〜
1985年に登場したのが、こちらのラベルです。メタリックな質感はそのままに、ロゴマークを刷新し、シンプルながらもより高級感が感じられるデザインに。90年代になると、ロゴマークを囲むゴールドラインが追加されました。
製造当時のブランドが込めた思いを反映したロゴマーク。rocca rocca では、ロゴラベルが残っている場合は商品画像に必ず掲載しているので、G-PLANの商品をご覧になる際はぜひロゴやスタンプ、ラベルにも注目してみてくださいね。
名作アイテムのご紹介
魅力的なシリーズ
Brandon(ブランドン)
1953年発表の、初期G-PLANを代表するシリーズ。多くのG-PLAN家具がチーク材を主に用いるなか、本シリーズでは珍しくオーク材を採用しています。オークならではの温もりと、英国らしいクラシカルな趣を残した佇まいが魅力です。
Brandon ドレッシングテーブル (B873)
明るい色合いとミッドセンチュリー期ならではの色気のあるレトロモダンの雰囲気が魅力です。
Brandon サイドボード(42488)
角ばった取手の形状が特徴的。黄味を帯びた明るい色味がナチュラルな印象も与えます。
「Brandon」シリーズの亜種とも言える、珍しいサイドボード。全体のデザインはブランドンでありながら、トーラ材が使用されており、取手のデザインは丸みを帯びています。
Tola & Black(トーラ&ブラック)
1950年代後半に登場したシリーズで、G-PLANの中でもひときわモダンな印象を放ちます。赤みを帯びたトーラ材(Tola)を基調とし、これにブラックの脚部を組み合わせたコントラストが最大の特徴。シンプルながらもスタイリッシュで、イタリアン・モダンの影響を色濃く感じさせます。エレガントさと個性を兼ね備えたデザインは、当時の英国インテリアに新風を吹き込み、現代でもヴィンテージ市場でコレクターに高く評価されています。
当時のロンドン都心部の間取りに向けて設計された間仕切り収納家具。トーラ材とブラックペイントのコントラストが美しく、適度に抜け感のあるデザインが魅力的です。
Tola & Black ドロップリーフ ダイニングテーブル (925)
流通量の少ないトーラ&ブラックシリーズの中でも、希少なドロップリーフテーブル。モダンでスタイリッシュなフォルムは、G-PLANを代表するデザインのひとつと言えます。
スタイリッシュで洗練された雰囲気が印象的で、トーラ材の色調や木目、真鍮メッキのゴールドの取手のバランスが絶妙で、どこか上品な印象を与えます。
Brasilia(ブラジリア/チークシリーズ)
1960年代初頭に登場し、チーク材を用いた独創的な造形美で知られるシリーズ。ブラジルの近代建築様式から着想を得た大胆なカーブや、立体的なハンドルデザインが特徴です。チーク材の深みある色調と、幾何学的でありながら流麗なフォルムが融合し、G-PLANの中でもモダンで彫刻的な印象が際立ちます。洗練された造形と素材感のバランスが高く評価され、現在でもデザイナー家具として根強い人気を誇ります。
収納部分は使いやすく機能的で、北欧的なセンスが感じられます。艶のある無垢材で作られた巻貝のような削り出し取っ手、脚と脚をつなぐ緩やかなカーブが美しい貫のデザインなど、ディテールが光る名品です。
G-Planを代表するチェアのひとつである、ブラジリアシリーズのダブルバックチェア。プライウッド(曲木)製法を用いた、なだらかな曲線が美しく、Wデザイン(ダブルバック)の背もたれが特徴的なチェアです。
無垢材からなめらかに削り出された脚や天板のエッジ部分により手触りの良さと独自の美しい佇まいを備えたテーブル。デザインの特徴から「ソリッドチークテーブル」と呼ばれています。流通量の少ないかなりのレアアイテムでもあります。
Quadrille(クアドリル)
1965年に登場した、G-PLANを代表する北欧モダン寄りのシリーズ。直線的でミニマルなフォルムを特徴とし、脚部や全体のラインに軽快さが感じられます。特に有名なのが、大小のテーブルを重ねて収納できる「ネストテーブル」。シンプルで機能的な構造は当時の家庭に新鮮さをもたらし、現代でもヴィンテージ家具の定番として高い人気を誇ります。
Quadrilleシリーズの特徴的な脚の型状が、3連になることで一層強調されます。シンプルながらも印象深いデザイン。
四方を面取りされた樽型取手、内側に緩やかな弧を描き外形を四角に組まれた美しい形状の脚が特徴です。
直線を基調とした美しいデザインの中に、天板や取っ手などに見られる柔らかな曲線が散りばめられ、エレガントなフォルムを更に引き立てています。
Fresco(フレスコ)
1966年発表の、G-PLANの中でも最も人気を博した代表的なシリーズ。主にチーク材を用い、滑らかな曲線を描く取っ手や柔らかなラインが特徴です。シンプルでありながら温かみを感じさせるデザインは、1960年代当時の英国の暮らしを象徴する存在となりました。サイドボードやダイニングアイテムなどが特に有名で、今なおヴィンテージ市場で高く評価されています。
Frescoシリーズを象徴するのは、"ロングジョン"と呼ばれて長年愛されているこちらのサイドボード。洗練された佇まいで大容量の収納を備え、幅広のキャビネットと脚のバランスが非常に美しいモデルです。
Frescoシリーズのリビングコレクションとして設計されたG-PLANの代表作とも言える人気モデル。テーブルトップを下から持ち上げるようなアール脚の造形が特徴。
フレスコシリーズのダイニングチェアの中でも最も人気が高い定番モデル。脚からプライウッドの背もたれへ続くなめらかなラインが非常に美しく、背面から見ても絵になる椅子です。
Sierra(シエラ)
1970年代に登場したシリーズで、G-PLANのなかでも力強く存在感のあるデザインが特徴です。直線的で重厚なフォルムに加え、収納力を重視したキャビネットやウォールユニットが多く展開されました。チーク材を基調としながらも、ややダークトーンの仕上げが多く、落ち着いた雰囲気を漂わせます。実用性と堂々とした佇まいを兼ね備えたSierraは、当時の家庭のリビングを「まとめる家具」として重宝され、現在もヴィンテージ市場で根強い人気を誇ります。
シンプルかつスタイリッシュなデザインで人気の高いSierraシリーズのハイサイドボード。持ちやすい取っ手、スッキリとした扉のデザイン、ドッシリとした安定感のある脚など、G-PLANの中でも一味違った個性が際立つ逸品です。
Sierra ブックケース / レッグカスタム
扉内のライトグリーンのカラーが特徴的なブックケース。画像は、ヘアピンレッグと呼ばれる鉄製の脚でカスタマイズしたものです。
Sierra エクステンションダイニングテーブル (4364)
シンプルで無駄のないフォルムと柔らかなチーク材の色調が美しく調和し、穏やかな気品が漂う一台。 拡張式の天板は機能的でありながら、構造の美しさまでも感じさせる、G-PLANらしい堅実なデザインです。
現代での評価と魅力
時を超えて愛されるG-PLAN家具
現代のインテリアにおいて、家具そのものが“ストーリーを持つ”ことは大きな魅力となっています。 G-PLANは、戦後のイギリスで人々へ「新しい暮らしの提案」を行った家具ブランドであり、「英国モダン=G-PLAN」と称されるほどの存在感を確立しました。 単なる家具としてだけでなく、「戦後の暮らしを変えた英国デザイン」としての歴史的背景が、一点一点の味わいをより深いものにしています。
今では希少な木材となったチークをはじめとするG-PLAN家具の温かみある素材感は、北欧家具や現代的なミニマルインテリアとも抜群の相性を見せます。 ヴィンテージならではの風合いや、時を重ねて育まれた質感もあわせてお楽しみいただければ幸いです。